健康診断後のバリウム便が便器に付着してしまった場合、重曹を使えば綺麗に掃除できることは、もはや多くの人が知る常識となりつつあります。しかし、この万能に見える重曹も、決して無敵ではありません。バリウムが引き起こすトイレトラブルには、重曹では到底太刀打ちできない、より深刻なレベルの問題が存在します。それは、便器の奥、目に見えない排水管の中での「詰まり」です。 バリウムが排水管の内部で詰まる最大の原因は、検査後の水分摂取不足です。医師から「水をたくさん飲んでください」と念を押されるのは、体内でバリウムが固まるのを防ぐためですが、これは同時に、トイレの配管内で固まるのを防ぐためでもあります。水分が不足した状態で排出された高濃度のバリウム便は、排水管のカーブしている部分などに溜まりやすく、そこで水分を失うと、まさに配管内部でコンクリートを練るような状態になってしまいます。こうして一度固まってしまったバリウムは、排水管にがっちりと固着し、水の流れを完全に塞いでしまうのです。 この段階にまで至ってしまうと、もはや重曹の出番はありません。重曹はあくまで便器表面の「見える汚れ」を研磨して落とすものであり、排水管の奥深くで発生した物理的な閉塞を溶かしたり、押し流したりするほどの力はないからです。市販のパイプクリーナーを使っても、化学的に安定している硫酸バリウムにはほとんど効果がありません。ラバーカップ(スッポン)で圧力をかけても、固まったバリウムはびくともしないでしょう。 もし、バリウムを排出した後にトイレの流れが著しく悪くなったり、完全に水が流れなくなったりした場合は、ためらわずに専門の水道業者に連絡してください。これは個人の手で解決できる範疇を超えた、専門的な処置が必要な緊急事態です。業者は、高圧洗浄機や特殊なワイヤーといった専用の機材を使い、物理的に固まりを破壊して取り除きます。 重曹は、あくまで予防と表面的な掃除のための頼れる味方です。その限界を正しく理解し、もし排水管の詰まりという深刻な事態に陥ってしまったら、無理に自分で解決しようとせず、速やかにプロの助けを求めること。それが、被害を最小限に食い止めるための最も賢明な判断と言えるでしょう。
バリウム後のトイレ詰まり重曹では解決できない深刻な事態