私たちの仕事は、住宅の「血管」とも言える配管の健康を取り戻すことです。毎日何十件もの家庭を訪問しますが、キッチンの下水臭に悩む家には共通した特徴がいくつかあります。その一つが、シンクの排水口だけを一生懸命に磨いているのに、その下の配管には全く意識が向いていないという点です。あるお宅では「毎日ハイターで除菌しているのに、夕方になるとドブのような匂いがする」と訴えられました。内部をファイバースコープで覗いてみると、排水口から五十センチほど進んだ曲がり角に、ヘドロ状になった野菜のクズと油汚れが巨大な壁を作っていました。これではいくら表面を消毒しても無意味です。匂いの正体は、このヘドロが発する硫化水素などのガスです。このガスは水よりも軽いため、排水トラップを通り抜けて室内に上がってきます。清掃員として皆さんに伝えたいのは、排水管は「ゴミ箱ではない」ということです。カップラーメンの残り汁や、少量の油なら大丈夫だろうという積み重ねが、数年後に大きなトラブルとなって跳ね返ってきます。特に最近の節水型食洗機などは、流す水の量が少ないため、配管の中に汚れが残りやすい傾向があります。私たちが清掃を行う際は、高圧洗浄機を使ってこれらの汚れを根こそぎ削ぎ落としますが、作業中に上がってくる匂いは、正にその家で数年間溜め込まれた「生活の影」そのものです。また、意外な原因として、排水管の「勾配不足」も挙げられます。家が建ってから年月が経つと、地盤の変動などで配管の傾きが変わり、水が流れずに常に溜まった状態になることがあります。こうなると、常に水が腐敗しているような状態になり、清掃をしてもすぐに匂いが戻ってしまいます。このような場合は、清掃だけでなく配管の引き直し工事が必要になることもあります。匂いは単なる「不快感」ではなく、配管の限界を知らせる「悲鳴」です。もし、市販の洗浄剤を何度使っても一週間以内に匂いが戻るようなら、それは一般の方の手には負えない、深い場所でのトラブルが起きている証拠です。早めに専門家を呼び、一度徹底的にリセットすることをお勧めします。それが結果的に、家の寿命を延ばし、毎日の料理の時間を楽しいものに変える近道になるはずです。
台所の奥底から漏れる下水の匂いの正体を追った清掃員の仕事録