住宅を所有するということは、その後の数十年にわたるメンテナンスの責任を引き受けることと同義です。不動産仲介の現場で多くのお客様と接していると、リノベーション物件でタンクレストイレが設置されていることを手放しで喜ぶ方がいらっしゃいますが、プロの視点からはあえてタンクレストイレをやめたほうがいいと助言せざるを得ない場面が多くあります。その最大の懸念は、物件の長期的な資産価値と維持管理の難しさに直結しているからです。タンクレストイレは、従来のタンク式トイレと異なり、便器と温水洗浄便座が一体化した精密な電子機器です。一般的な家電製品の寿命が十年から十五年であるのと同様に、タンクレストイレもまた、その期間を過ぎれば基板の劣化やセンサーの故障というリスクに直面します。問題はここからです。タンク式であれば、便座が故障しても数万円で最新の便座に付け替えるだけで済みますが、タンクレストイレの場合は部品の供給が止まっていると、陶器の便器そのものは全く問題なくても、すべてを撤去して丸ごと買い替えなければなりません。この「部分修理ができない」という特異な構造は、賃貸経営を行うオーナーにとっても、長く住み続ける予定の購入者にとっても、予期せぬ大きな出費を強いることになります。また、水圧の問題も無視できません。特に高台にある戸建てや、古いマンションの中層階以上では、水道直結方式のタンクレストイレは十分な洗浄力を発揮できないことがあります。設置した後に流れが悪いことに気づき、後付けでブースターポンプを導入するとなれば、さらなる電気代と作動音に悩まされることになります。さらに、タンクレストイレにはタンクがないため、手洗い場を別途設ける必要があります。この工事が不完全であったり、安価な手洗いユニットを選んだりすると、そこからの水漏れが階下に甚大な被害を及ぼす事例も見てきました。見た目の美しさは確かに内見時の印象を良くしますが、住み始めてからの実利とコストを考えれば、汎用性が高く、構造がシンプルなタンク式トイレの方が、住宅という資産を守る上でははるかに理にかなっているのです。流行に惑わされず、十五年後や二十年後のリフォーム費用を想定した設備選びをすることが、賢明な不動産購入の第一歩だと言えるでしょう。
タンクレストイレの導入をやめたほうがいい不動産視点の理由