ある地方都市で小さなイタリアンレストランを営む店主の男性は、ある月の水道料金の請求書を見て、椅子から転げ落ちそうになりました。普段は二ヶ月で六万円前後だった支払額が、一気に三十万円を超えていたからです。飲食店にとって水は命であり、パスタを茹でる、食器を洗う、掃除をするなど、水の使用量が多いのは承知していましたが、客数や営業日数に大きな変動がない中でのこの跳ね上がりは、どう考えてもおかしく、経営を圧迫する死活問題でした。店主はまず、スタッフの中に水を出しっぱなしにする不届き者がいないか疑いましたが、全員が否定しました。次に、夜中に誰かが勝手に厨房に忍び込んで水を使っているのではないかと被害妄想に近い不安に襲われましたが、防犯カメラを確認しても異常はありません。意を決して水道局に電話をすると、担当者は冷静に「どこかで漏水している可能性が非常に高いです。まずは全ての蛇口を閉めてメーターを確認してください」と告げました。営業終了後の深夜、静まり返った店内で店主がメーターボックスを開けると、そこには絶望的な光景がありました。銀色のパイロットが、まるで独楽のように高速で回転していたのです。翌朝、すぐに専門の水道業者を呼び、特殊な聴診器のような器具で床下の音を調べてもらったところ、コンクリートの下を通っている古い配管に亀裂が入り、そこから大量の水が噴き出していることが判明しました。飲食店という性質上、厨房の床は常に水で濡れていることが多く、多少の湿気には気づかなかったのが仇となりました。修理のためには床のタイルを剥がし、コンクリートを削るという大掛かりな工事が必要となり、数日間の臨時休業も余儀なくされました。工事が終わった後、店主は水道局に修理完了証明書を提出し、漏水減免制度を申請しました。しかし、減免されたのはあくまで「漏水分」の半分程度であり、それでも普段の三倍近い料金を支払うことになりました。この事件以来、店主は毎日開店前と閉店後に必ず水道メーターを確認し、その数値を日報に記録することを義務付けました。水道料金の異常は、単なるコストの増大だけでなく、目に見えない場所で建物の土台を蝕んでいるサインでもあります。商売を続ける上で、インフラの管理がいかに重要であるかを、彼は高い授業料を払って学ぶことになったのです。この教訓は、飲食店のみならず、全ての事業者や家庭にとっても、決して他人事ではないリスク管理の要諦と言えるでしょう。